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襖障子から射し込む光が大分弱くなってきた頃、悠生は幸に尋ねた。
「あの…今何時くらい?
早く帰らないとお父さんとお母さんが心配するんだ。」
「もうすぐ暮六つですよ。
最近は日が長くなってきたからまだ外は明るいですけどね。」
「くれむつ?
それってどのくらいなの?」
幸は困った。
どう返事をすればいいのだろう。
暮れ六は暮れ六なのだ。
現代でいうならば、「六時って何時なの?」と言われているようなものである。
幸は困った挙げ句、笑ってごまかした。
悠生は布団から立ち上がった。
「僕、帰ります。」
言って襖を開けた。
後ろから幸の声が聞こえたが、聞こえなかったフリをして裸足で縁側から庭に降りた。
悠生の中には“家に帰らなければ”という使命のようなものがあった。
暗くならないうちに家に帰らなければ、母や父が心配する。
突然いなくなってしまったので、もしかしたら今頃心配して探しているかもしれない。
悠生はちょうど目に入った小さな門から屋敷の外に出た。
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