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幸の言ったとおり、まだ外は大分明るかった。
悠生は小道を走り抜け、大路に出た。
そこには悠生の全く知らない世界が広がっていた。
通りを行く男達のほとんどは髷を結っていた。
着物を着て、草履を履き、腰に日本刀を挿している者もいる。
カラコロと下駄を鳴らしながら小俣で歩く女達も皆、髪を日本髪にし、着物を着ていた。
建ち並ぶ建物もコンクリート造りのものは皆無で、全てが木造建築であった。
洋服を着ている者は誰一人としていない。
悠生の短い髪の毛が異質なものに見える。
それはまるで時代劇の一場面をくり抜いたかのような光景だった。
悠生は大路の端を歩いた。
裸足で出て来たため、足の裏がジンジンと痛む。
悠生は早くも、屋敷を飛び出してきたことを後悔した。
悠生は建物の間の狭い路地に座り込み、膝を抱えた。
「僕きっと、昔に来ちゃったんだ。
どうしよう…。」
脳裏に母と父の顔がよぎる。
悠生は膝に顔をうずめてすすり泣いた。
やがて日は完全に沈み、辺りは真っ暗になった。
そして遂に悠生は声をあげて泣き始めた。
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