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「静かに!!」
突然、背後から口を塞がれた。
我に返った悠生は暴れ出した。
「おい、コラコラ!
暴れるな。
俺だよ、“ゆうき”」
悠生は動きを止めた。
振り返ると、そこには桂がいた。
桂はヨシヨシと悠生の頭を撫でると、着物が汚れるのも気にせず、悠生を抱き上げた。
「もう大丈夫だ。
屋敷に戻ろう。」
悠生は桂の首もとにしがみついた。
桂は悠生が何故こんなところにいるのか、問い詰めたりはしなかった。
桂は大路は歩かず、裏路地を歩いた。
くねくねと入り組んだ細い道を迷うことなく進む。
悠生はその間中、桂の肩に顔をうずめて泣いていた。
着物が涙と鼻水で濡れたが、桂は何も言わなかった。
やがて長州藩邸が見えて来た。
桂は裏の門からそっと中に入った。
「着いたぞ。
もう心配ない。」
そう言って桂は悠生を地面に下ろした。
それと同時に幸が屋敷から飛び出してきた。
「桂さん!“ゆうき”君!
どうなさったんですか!?」
幸は悠生と桂に僅かに付着した血を目ざとく見つけて血相を変えた。
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