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「そんな…まさか…。」
幸は訝しげな目で悠生を見た。
「本当だもん!!」
半ば叫ぶように訴える悠生に桂が口を挟んだ。
「何故、そのようなことになってしまったのかは分かるか?」
穏やかな口調だった。
「桂さんっ!?」
幸が信じられないと言うように声をあげた。
「俺の人を見る目は確かだよ。
少なくとも、“ゆうき”は密偵などではない。
密偵として故意に送り込まれたのなら、せっかく入り込んだこの藩邸から、手ぶらで出て行くようなまねはまずしないはずだからな。」
桂は淡々と続けた。
「それに、“ゆうき”の言っていることが真実だとしたら、尚更この子をここから追い出すことは出来ない。
“ゆうき”がどれだけ歴史の流れを知っているかは分からないが、もしこの子が未来の出来事を皆に話してしまえば、大きな混乱が生まれるだろう。
先程この子は『侍はいない』と言った。
そして『徳川幕府』の存在を知らなかった。
つまり、近い未来か遠い未来かは分からないが、いずれ徳川幕府はなくなり、日本は武家社会ではなくなるということだ。」
桂の顔は真剣だった。
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