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「だからせめて、見届けたいのだ。 この国の行く末を。 弟子達の生き様を。 しかし、私にはもうそれをするだけの力も時間もない…。」 男は悲痛そうな表情をした。 「だから探していたのだ。 君を。」 男と悠生の目が初めて合った。 力強い目だった。 穏やかであるのにも関わらず、強い光を放っている。 「君を…というと少々語弊があるが、つまりここへ連れて来ることのできる人間を探していたのだ。」 「それが、僕?」 悠生の声が男に届いた。 「そうだ。 私は願いを叶えたかった。 だから君を犠牲にしてここに連れてきた。」 「願いって…?」 「私の願いはただ一つ。 見届けたい…。 ただそれだけだ。」 ますます不思議そうな顔をする悠生の頭を男はその大きな手で優しく撫でた。 「だが、私にはもうそれができないから、代わりに君にやって欲しいんだよ。 そして、教えて欲しい。 君の見た全てを…。」 「僕、できないよ!!」 「大丈夫。 君はただ見るだけでいい。 この世界を。 この時代を。 ここに生きる人々を。 そうすれば、君は元の時代へ帰れる。」 悠生は男の顔を見た。
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