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「寅次郎だ。」 男は名だけ告げると、今度こそ消えていった。 死して不朽の見込みあらばいつでも死ぬべし 生きて大業の見込みあらばいつでも生くべし 悠生はまた闇の中、一人になった。 心細くて、大声で何度も叫んだ。 しかし返事をしてくれる者は誰一人としていない。 それでも叫んで叫んで、叫びすぎて声が嗄れてきた頃、ふと前方にキラキラと輝くものが見えた。 そこへ走って行くと、小さな池があった。 光源も何もない暗闇の中、池自身が光を発しているように見えた。 悠生は吸い込まれるようにして池を覗き込んだ。 池が様々な色彩を放っている。 目を凝らして見ると、そこには父と母がいた。 「お父さん!! お母さん!!」 悠生は池の底を食い入るように見つめた。 そこにいる父と母はいつものように笑ってなどいなかった。 酷く辛そうな顔をしている。 悠生はとっさに悟った。 自分を探しているのだと。 よく見れば、周りには警察官や近所の人、小学校の先生までいる。 悠生の目から涙が溢れ出した。 涙を零す母の肩を父がそっと抱き締めている。 「お父さん!! お母さん!!」 悠生はもう一度二人の名を呼ぶが、その声が二人に届くはずもなく、やがて池には何も映らなくなった。
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