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そうは言ったものの、桂は困っていた。
大いに困っていた。
最高に困っていた。
桂とて、子供の扱いに慣れているか、と言われれば否なのだ。
ましてや両親を求めて泣き喚く子供を一体どうしろと言うのだ。
「桂さん…。」
先程の青年が心配そうな顔で話し掛けてきた。
「何だい?
栄太郎。」
「稔麿です。」
いつまで経っても、自分を幼名で呼ぶ桂に青年・吉田稔麿は少々呆れながらも律儀に訂正した。
「本当にこのような幼い子供を小姓にするのですか?」
稔麿の言葉には暗に役に立たないだろう。という意味合いが込められていた。
「そのつもりだよ。」
ハッキリと言い切った桂に稔麿はそれ以上何も言わなかった。
他の侍達が桂を困ったように見つめている。
結果、桂は人だかりの中心で泣く悠生を拙い手つきで抱き上げた。
耳元でわんわん泣く悠生の背をポンポンと叩く。
悠生は桂の長い髪を一房掴み、首に腕を回ししがみつきながら泣いた。
髪をぎゅうぎゅう引っ張られ、数本抜けたような気がした。
悠生が顔をうずめている肩は涙と鼻水と涎でベトベトだった。
しかし桂は何も言わず、悠生をただ慰め続けた。
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