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桂は悠生の髪を撫で続けた。
「よくこうして、桂の母上が俺を慰めて下さった。」
桂の目はどこか遠くを見ていた。
今もまだ十分に若いが、それより更に若い時に相次いで家族を失った桂の心の傷は大きい。
周りが思っているほど桂が強い人間ではないことを稔麿はよく知っていた。
桂は強いわけではない。
強く有らねばならないために、強いフリをしているだけなのだ。
もしかしたら桂は、両親を求めて泣く、この弱い子供に自分の姿を重ねているのかもしれない。
稔麿は憂いを帯びた桂の横顔を見て、そんなことを思った。
夜が明ければ、桂はまた長州藩維新志士筆頭として強く有らねばならない。
この幕末において、時に生きることが死ぬことよりも辛いことが多々ある。
そのことを稔麿はよく知っていた。
スヤスヤと安らかな寝顔を見せる悠生。
悠生の頭をただただ優しく撫でる桂。
そんな二人の様子を目元を和らげ見守る稔麿。
この動乱最中の京で、驚くほどに穏やかな時が流れた。
そんな光景を、ただ月だけがひっそりと覗き見ていた。
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