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悠生は言われた通り、冷たい水で顔を洗い、髪を手櫛で解かし、部屋に置いてあった若草色の着物を手に取った。
(どうやって着るんだろ……。)
悠生はしばらく考えた後、着物を手に持ったまま部屋を出た。
部屋を出た悠生は行く宛てもなく、フラフラと屋敷内をさまよった。
「おい。」
背後から呼び掛けられ、悠生はビクリと飛び上がった。
「お前はまだそんな格好で何をやっとるんじゃ!」
先程の少女であった。
「あの…これの…その…。」
「っだぁ!もう!
はっきりと喋れ!
まどろっこしいのぅ!」
「き、着方が、分からなくてっ!」
悠生は涙目になった。
「すぐ泣くなっ!
男じゃろう!」
悠生は恐怖のあまりコクコクと頷くことしかできなかった。
「こっちに来い。
自分が着せちゃる。」
少女は悠生の腕を引っ張った。
腕が抜けそうなほどに強い力だったが、悠生は何も言えなかった。
少女に着せられた着物は悠生のサイズにピッタリだった。
しかもまだ新品のように見える。
「その着物は桂先生がわざわざお前のために今朝用意した物じゃ。
大切に着るんじゃぞ。
全くなんて羨ましいっ!」
少女は拳をプルプル震わせた。
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