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「わずか十かそこらの子供が、幕府の間者などという大役を務められるとは思えないが。」 「十歳じゃないよ。 七歳だよ。」 桂と久坂の二人は、かなり深刻な話をしているのだが、そのようなことをちっとも理解しない悠生は、自分の年齢を無邪気に訂正した。 「……七歳だとしても。」 久坂は暗に安政五年に起きた“安政の大獄”のことを言っているのだ。 当時大老であった井伊直弼は、朝廷の許可なく米国と日米修好通商条約を結んだり、将軍継嗣問題において、紀伊藩主徳川慶福(十四代将軍徳川家茂)を継嗣に決定するなどの専断を行った。 それらの事に対して、批判的な運動を行った公卿や諸大名、各藩士達を井伊は悉く捕らえ、処罰した。 それが“安政の大獄”である。 処罰の対象となった者は百余名にも上ったという。 しかし大老としてそれだけの権力を振るった井伊も、その二年後に江戸城桜田門外で水戸・薩摩の浪士達に暗殺されている。 「では、奈津に見張りをさせよう。 どのみち仕事は一緒なのだし。 それなら問題はないだろう。」 桂の提案に久坂は渋々了承した。
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