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質素な朝食を(奈津に急かされ)手早く取らされた勇希は、只今町にいた。
勇希にとっては見るもの全てが初めてで、新鮮である。
店先に並ぶ品々を見ては感嘆し、建造物を見ては歓声を上げる。
仕舞には、道行く侍や商人達を目で追い始める。
これでは怪しさ満点である。
「おい、いいかげんにせんかっ!」
フラフラ歩く勇希の首根っこを奈津が掴み、グイッと引き寄せる。
「真っ直ぐ歩け。
仕事中じゃ。」
奈津の言うとおり、勇希は初仕事中であった。
それほど難しいわけではない、簡単な小姓の仕事だ。
「ねぇ、奈津さん。」
「外では総助と呼べ。」
「なんで?」
「見れば分かるじゃろう。
男装をしておるからじゃ。」
「なんで男の子のフリしてるの?」
「女は刀を持てぬ。
侍にはなれぬ。
桂先生の小姓はできぬからじゃ。」
二人はコソコソと小声で話した。
「お兄さんの小姓になりたかったの?」
「あぁ、そうじゃ。
わしはあのお人を尊敬しちょる。
少しでも役に立ちたい。」
「尊敬?」
勇希にはまだ、尊敬するという感情が分からなかった。
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