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「どうしたの?」
勇希は奈津の袖口を引っ張る。
しかし奈津はそれを綺麗にスルーし、脱兎の如く屋敷に向かって走り始めた。
勇希は目をパチクリさせたが、すぐに奈津の後を追いかけた。
その後を稔麿が苦笑しながら、ゆったりとした足取りで付いてくる。
「奈津さん、どうしたの?
仕事?」
奈津は勇希の口を塞いだ。
そして壁に張り付いて、小さな窓の隙間から屋敷の中を覗く。
「………?」
勇希も背伸びをしてそれに習った。
中には桂がいた。
風呂に入っている。
………………………。
「奈津さん?」
勇希は目をパチクリさせた。
「っかぁ~相変わらず桂先生は麗しいのぅ~。」
デレデレと笑う奈津。
「ねぇ…奈津さん。
お風呂入ってるの覗いちゃマズいよ。
ストーカーだよ。」
「なんじゃ、ストーカーとは。」
「あっ、そっか。
ストーカーは外来語だ。
すとぉかぁだよ。」
「いや、分からんから。
それに、わしはこうして桂先生が風呂に入っておられる時に襲われぬよう護衛しておるのじゃ。
かつて鎌倉に幕府を開いた源頼朝の父・源義朝が入浴中に襲撃され命を落とした!
つまりっ!
入浴中とは武士が一番気を緩める時っ!」
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