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「ねぇ、奈津さん! まだぁ~!?」 勇希は声を張り上げた。 只今勇希と奈津は買い物中である。 選んでいるのは目も眩むような高級和菓子。 長州藩邸には度々偉いお客様が来る。 その時に出す和菓子を選んでいるのである。 「もうどれでもいいじゃん~! 全部美味しそうなだしぃ~!」 いいかげん待ちくたびれた勇希は駄々をこね始めた。 「うっさい! そこで待っちょれ!」 「え~!!」 勇希は頬をプックリ膨らませた。 今日も桂達は仕事で出払っている。 勇希は道行く人々をボゥッと眺めた。 奈津は遂に和菓子を決めたらしく、勘定のため店の奥に入っていった。 「……!!」 勇希の目の前を一人の女性が通り過ぎた。 髪を日本髪に結い、少し古びた着物を着ていた。 勇希は奈津に『ここで待っちょれ。』と言われたことも忘れ、思わずその女性を追った。 しかし人通りの多い昼間。 勇希は道行く人にぶつかり、押されながらも、必死に追い掛けた。 「お母さんっ!!」 遂に女性の袖を掴んだ。 しかしよく見るとそれは全くの別人であった。 「ごめんなさい。 間違えました。」 勇希が袖を放すと、女性はまた早足で去っていった。
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