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「そんで?綾にはこの事は言わねぇよ。お前がちゃんと自分から話せ。
頼み…って言うのは、まだ黙っててくれって事なんだろう?」
「まだ内緒にしておいて頂きたいですが、今日お願いしたい事はそれとは別の事で…」
「何だ?」
「ここの証人の欄にサインをお願いしたいんです。どうしても、綾さんのお父さんに書いて頂きたくて――」
「…お前、もう一回パンチ食らってみるか?」
あの強烈な一撃が脳をよぎり、涼はギリッと歯を食いしばった。
「バーカ、冗談だよ。
お前を殴ると…綾、怒るからな」
親父さんは力なくそう言って、震える手で名前を書いてくれた。
そして、自分で名を書き入れた婚姻届を見つめながらこう言った。
「…涼、帰ってこいよ。絶対だ」
「はい、…必ず」
俺は婚姻届を受け取り、綾の家をあとにした。
必ず、彼女の元に戻るとご両親に約束して…。
その足で俺が次に向かったのは、竜さんの所だった。
親父代わりである竜さんに、もう一人の証人になってもらう為だった。
こうする事を決めてから、それは竜さん以外に考えていなかった。
「――竜さん。お願い…します」
竜さんは…また泣いていた。
泣きながら『ありがとな』って、俺に…そう言ってくれたんだ。
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