第六章・―逃げる想い、掴む想い―

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「先輩、お待たせしました」    声をかけられて見ると、そこにはいつもよりフェミニンなスーツに身をまとった、少し薄い化粧をほどこしている彼女が立っていた。    思わず見とれた後、照れ隠しとばかりに大げさに手を振りながら笑みを浮かべていたら、恥ずかしそうにたしなめられてしまった。    それから彼女の化粧をほめて、今夜は選びに選んで決めたレストランに招待しようと、予約している事を告げると歩き出す。    彼女が喜ぶ事なら、楽しんでくれる事なら何でもしたい。今日に限ってしつこく同僚が飲みに誘ってきたけれど、なんとか断ってまで得たチャンスだ。    これを逃す手はない。きっと逃したら後悔する。言ってしまおう、食事が終わったら大事な話があるのだと。
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