1706人が本棚に入れています
本棚に追加
「自分でも馬鹿だと思う。こんなもので、……人の気持ちを、つなぎ止めておけるわけがないって、分かってるのに」
私の腕をにぎる先輩の手はふるえていて、どうして良いのか、なにを返せば良いのか、分からない。
怖い――。
今はどうして、そんなに先輩を怖がってるの……?
「でも、俺は真剣なんだ。本気で猫ちゃんの事、誰にも渡すもんかって思ってる。……だから、俺……」
全部、全部全部全部全部、初めて聞く話に初めて見る表情、声、なにもかも、知らない誰かが、そこにいるみたいだった。
本当の先輩は、そんな風だったの――?
ビロウド張りの箱を持つ手が、ふるえる。
怖いけど、それ以上に嬉しいって思うから。
最初のコメントを投稿しよう!