第1章 始まった日々

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そう思ったところで俺は一つのことに気が付いた。 まだ彼女の名前を知らない。 「あっ、俺、本村知告っていいます。以後宜しくです」 なんとも締まらない初め文句だったが、これが今の俺の精一杯なのだから仕方がない。 しかし、彼女なら答えてくれるだろう。 そして、俺の予想通り、彼女は答えてくれた。 「あっ、すいません。自己紹介がまだでしたね。私は、えっと、白河夏海(しらかわ なつみ)です。宜しくお願いします」 俺は驚いた。 そして思った。 夏の海のように光り耀く彼女は成るべくして成ったんだ、と。 名前。 それには偉大な意味があるのだと、俺は思っている。 四年前に亡くなった、俺の祖母がいつも俺に聞かせてくれた、金言のようなものがある。 『名前には、必ず意味がある。その意味は、その名前の人の一生を決めてしまうほどに偉大なものなのだ。しかし恐れる必要はない。その偉大な意味は、その名前の者自身なのだから』 この言葉を忘れたことはない。 今も完全には理解出来ていないが、大切な意味があるということだけは分かる。 だから俺は自分の名に自信を持っている。 そして、彼女もその名前に自信を持ってほしい。 そんな、素晴らしい『意味』を授けてくれた人に感謝しながら。
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