プロローグ

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彼女はその後、俺に気付くことなく石段を降りていってしまった。 あとから、何度話しかければよかったと後悔したか知れない。 なぜ話しかけなかったのか。 否、なぜ話しかけられなかったのか。 不安だったのだろうか。 彼女に拒絶されることが。 いや、違う。 勇気が無かったんだ。 俺なんかが、彼女の切なさを取り払えるだろうか、と。 俺は彼女の切ない眼差しを見てすぐに気付いた。 彼女の切なさは、淋しさからきているのだと。 それを俺が少しでも取り払えるなら、話せばよかった。 たとえ、変な人だと思われても。 余計なお世話だと、軽くあしらわれても。 (・・・なに考えてんだ、俺・・・・・・。ほんとに変な人じゃないか・・・・・・) 別に俺は、こんなお節介を焼く、優しい奴なわけじゃない。 他人事は他人事と、割り切って生きているつもりだ。 ・・・なのに。 ・・・・・・何故。 今日、初めて逢った人なのに。 別に話したわけでもない、他人なのに。 何も知らない、普通の少女なのに。 そう分かっていても考えてしまう。 あの彼女のことを・・・・・・。 その思いの堂々巡りに終わりを迎えたのは、日が完全に地平線に沈み、西の空さえも暗くなった、彼女が去ってからずいぶんと経った、『時間』そのものだった。 また・・・・・・来よう。 その結論を胸に、俺は石段を降りてゆく。 沈みゆく、己の想いのように・・・・・・。 そしてこれが、俺とあいつの、『再会』だったのだと気付いたのは、この日からずっと後のことだった。 今思えば、この日から動いていたのだろう。 俺とあいつの、『運命』というやつは。 この日は想い出の日だ。 絶対に忘れないと誓った、 ――『奇跡』の初まりなのだから――
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