3人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女はその後、俺に気付くことなく石段を降りていってしまった。
あとから、何度話しかければよかったと後悔したか知れない。
なぜ話しかけなかったのか。
否、なぜ話しかけられなかったのか。
不安だったのだろうか。
彼女に拒絶されることが。
いや、違う。
勇気が無かったんだ。
俺なんかが、彼女の切なさを取り払えるだろうか、と。
俺は彼女の切ない眼差しを見てすぐに気付いた。
彼女の切なさは、淋しさからきているのだと。
それを俺が少しでも取り払えるなら、話せばよかった。
たとえ、変な人だと思われても。
余計なお世話だと、軽くあしらわれても。
(・・・なに考えてんだ、俺・・・・・・。ほんとに変な人じゃないか・・・・・・)
別に俺は、こんなお節介を焼く、優しい奴なわけじゃない。
他人事は他人事と、割り切って生きているつもりだ。
・・・なのに。
・・・・・・何故。
今日、初めて逢った人なのに。
別に話したわけでもない、他人なのに。
何も知らない、普通の少女なのに。
そう分かっていても考えてしまう。
あの彼女のことを・・・・・・。
その思いの堂々巡りに終わりを迎えたのは、日が完全に地平線に沈み、西の空さえも暗くなった、彼女が去ってからずいぶんと経った、『時間』そのものだった。
また・・・・・・来よう。
その結論を胸に、俺は石段を降りてゆく。
沈みゆく、己の想いのように・・・・・・。
そしてこれが、俺とあいつの、『再会』だったのだと気付いたのは、この日からずっと後のことだった。
今思えば、この日から動いていたのだろう。
俺とあいつの、『運命』というやつは。
この日は想い出の日だ。
絶対に忘れないと誓った、
――『奇跡』の初まりなのだから――
最初のコメントを投稿しよう!