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今日は、というか今は、昨日みたいに海を眺めてはいなかった。
ベンチに座り、心地よさそうに微睡んでいる。
予想の範囲外の、微睡みというアクションに、俺はどうすればいいのか分からない。
『体が鉛のように重くなった』という表現は、おそらく今の俺の状態にぴったりだろう。
どうしようという思考ばかりが先行してしまって、身体がついていけない。
俺が彼女をまさしく凝視して立ち尽くしていると、俺の不自然なオーラに気付いたのか、彼女が微睡みから目覚めた。
目をこすり、気持ちよさげに伸びをすると、俺に視線を向けた。
そして、
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しばらく沈黙が続いた。
俺はただ何をすればいいのか分からず、硬直していただけだが、彼女は違ったようだった。
これは夢なんじゃないだろうか、とでもいうような、そんな驚いたような目を俺に向けていた。
何故だろう。
俺は実直にそう思った。
俺みたいなのが、この高台に来ることに珍しがっているだけなのだろうか。
いや、それにしてはあまりに驚きの度合いが違う。
なにか、感動が混じった驚きを目に秘めているように、俺には見えた。
わけが分からない。
彼女のことはもちろん、俺自身が何をしたいのかもだ。
ただ唯一、確実にわかることが一つ。
こんな状況になって、何一つ動くことすら出来ない俺の不甲斐なさだ。
・・・本当に情けない。
ずっとどうしようか考えていたのに、いざとなったら、話しかけることさえ出来ない。
何しにきたんだ、俺は・・・!
話さなきゃ。
また昨日みたいに後悔したくない!
その感情だけが、自身を突き動かす糧だった。
俺はその糧を十二分に使い、彼女に話しかけた。
そう、初めて彼女に・・・。
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