37人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ
翌日、私はまたF木台にいた。
今度はミニクーパーが走らせられる、夜中に。
私は意を決して家のチャイムを鳴らした。
しばらくするとインターホンから若い男の声がしたので、よし、と思った私は「配達物ですが」と嘘をついた。
扉を開けたのは、やはりあのときの少年だった。
少年は、呆然としながら、私だと分かると逃げだそうした少年の手をつかみ、ひとこと言った。
「あなたに来てもらいたいところがあります」と。
それでもやはり暴れる少年を、私は無理にでも車に乗せた。
「お前、誘拐だぞ! 分かってんのか! なんとか言えよ! この犯罪者!」
やはり車の中で少年は暴れた。それでも私は気にしなかった。
今頃、この少年の家では、誘拐事件が起きたと騒いでるだろうか、とやけに冷静な自分がいた。
誘拐でも拉致でも、何でもいい、私はあの男の気持ちを、この少年に伝えなければならないと思いながら、ミニクーパーは颯爽と夜中の道を走り出す。
その間に少年はまだ暴れていたが、私は構わなかった。
見てほしい風景が、感じてほしい気持ちが、確かにそこにはあるのだと、ただそれだけを少年に見せたかったのだ。
しばらくすると、まばゆい光があたりを包んだ。
最初のコメントを投稿しよう!