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翌日、F木台に私はいた。
チケットを片手に顔も知らぬ、あの男の息子にこのチケットを渡すために。
しかし、不思議なものだった。一度だけ行っただけのこの道を、バスを使い、しばらく歩いていた頃には、昨晩、男が言っていた家に迷うことなく辿り着いていたのだ。
もしかしたらタクシー運転手の才能、あるのかもなぁと思っていると、その家から1人の中学生くらいの少年が出てきた。
この子……か?
半信半疑なまま、私は、少年に声をかけた。
「こんにちは。初めまして」
言いながら少年に名刺を渡すと、その名刺をいぶかしげに眺めた。
「君に渡したいものがあるんだ」
昨晩、その男からもらった野球のチケットを2枚、渡した。
「昨日、君のお父さんから預かったものなんだ。もらっときな」
気楽に渡した私とは反対に、少年の顔はみるみると表情を変えて、その後、叫んだ。
「あんた何者だっ! いたずらなら俺以外の誰かにしろよ! 俺の父さんはもう死んでるんだよ!」
そう叫んだ後、少年はチケットをグシャグシャにして、地面に叩きつけて走り去った。
「……死んだ?」
一瞬の出来事が私には理解できないまま、グシャグシチケットを拾い上げた。
「どういうことだ……?」
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