◇つぼみの誘惑◇

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 目黒の客先オフィスに到着すると、頭をかきながらそこの中堅社員が言った。 「森原さーん、すみませんね、初歩的な設定ミスがわかりまして、つい今しがた解決しちゃいました。ホント、ご足労かけて申し訳ないです。」頭を下げる。 「いや、それなら良かった。いいですよ、他にも顔出すところがあるんで。また何かあったら連絡下さい。」僕は社交辞令な笑みで挨拶して車に戻った。  ふぅ、携帯をチェックする。桃子からメールを三通も受信していた。 「僕はもらったメールはちゃんと目を通すけど、仕事が忙しいから返信はできないことが多いよ。」と、あらかじめ桃子には言ってある。 それでも彼女は日記をつけるように、僕に微笑ましいメールを送信してくるのだ。 時間も空いたことだし、声を聞いてみるつもりで桃子に電話をかけた。 「森原さぁん!今どこ?」弾んだ声が響く。 それから、渋谷にいるという彼女を迎えに行き、ドライブすることになった。 流れる車に目を凝らしていた桃子が僕の車に気付き、手を振りながら駆け込んでくる。 「友達を放っていいの?悪い子だな、桃ちゃんは。」ハンドルを握りながら、右肘で彼女の腕のあたりをこづく。
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