唐突な始まり

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9時00分 場所:音楽室 プレイヤー:冬月 陰 旧校舎の最上階である4階の一番奥の部屋―――音楽室 そこで俺―――冬月 陰(ふゆづき いん)は卒業式で歌う歌の練習をしていた。 とは言っても、歌の練習場所は音楽室だけでなく、となりの部屋の美術室、2階の一番奥にある家庭科室などでも練習をしている。 そのため、先生はたまにしかおらず、ある者はおしゃべりをし、ある者はこっそり持ってきているケータイをかまい、自由に過ごしていた。 俺はなにをしていたかというと、窓から景色を眺めながら卒業のことを考えていた。 高校生になる。 それが俺の進路。 だいたいの者が選ぶ進路である。 しかし、一部の人は高校生にならずに、お金がないために就職する者もいる。 俺には夢がない。 俺の家は裕福とまではいかなくとも、夢を選ぶことはできるぐらいにはお金には困らないだろう。 それなのに、俺はこの歳になっても夢がないのだ。 それは夢を選べない人にとっては侮辱しているのかもしれない。 それでも、未来の自分を予想できないし、それどころか高校生になった自分すらイメージがうかばない。 子どもの頃は野球選手になるとか社長になるなどの夢があったのに、なぜ今はその夢をあきらめ、1つも夢をもてなくなったのか? そして、いつから夢を持てなくなったのか? そして 今の俺は、あとどれぐらいしたら夢を持てるのか? そんなことをなんとなく考えていた。 夢をそんなことと考えていたからだろうか? それは突然やってきて、大切なものを奪っていった。 そのときの俺は、まだそんなことになるとは考えもしていなかったんだ。
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