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タクシーは走り出した。
目的地は佐伯宅。
少し距離はあるのだが、もう降りたいと思う佐伯がいた。
「すいませんね!考えがなかったというか、甘いというか…すいません。」
フロントガラスが無くなった車内は風を真っ向から受けている。
息苦しいし、会話も出来る状態ではない。
目を開けていると痛いからと運転手は眼鏡をしている。
目を閉じ、深く息を吐いてみた。
頭の中には片桐がいる、煙草の匂いまで伝わってきそうなほど鮮明にイメージ出来ていた。
無にする。
風の音が消える、片桐も消えた。
広がる暗闇の状態に、蝋燭を一本立てた。
その小さな灯りに集中していく。
これが佐伯の集中力を高める技だった。
佐伯は独り言をポツリと吐いた。
「ノープラン。」
その声に反応したのか、運転手は耳に手をやりルームミラーから見てきた。
首を二度だけ横に振り、笑顔を返した。
意外と風が気持ち良く感じてきた。
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