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びしょびしょに濡れたアロハシャツのボタンの隙間からはプックリ膨れた腹の一部が見える。
「あの…大丈夫ですか?」
私は恐る恐る聞いた。
「まさかっすよ!河原って知ってたけど、いきなり水中なんて!
そんなに若くないっすわ!」
???
彼は怒りと驚きでパニック状態のように感じた。
私は黙って落ち着くまで見守るしかなかった。
「駄目だな~!休み長いと鈍るんだね~、こりゃ一本とられた!ぶっはっはっはっ!」
私は、もしかしたら一般教育で習った、近づいてはいけない「人物」と接触しているのだろうか?
ただ、彼への不信感は何故か私には感じない。
「どうも!すいませんね!
ちょっとパニックに陥りましたが大丈夫です!」
彼は通常の状態に戻ったようで、笑顔で私を見た。
きっとこの笑顔が不信感を消しているのだと、私は気づいた。
「何やってたんです?」
私の問いは聞こえたのだろうか?
彼はアロハシャツを落ちていた長い枝に掛け、まるで応援旗のように振りだした。
無言の空気の中にアロハシャツはバタバタと風を切り、気持ちよさそうに靡いていた。
「申し遅れました。
私の名前は佐伯と申します!決して怪しい者ではないので安心してください!」
笑顔なのだが、振り過ぎて腕が疲れてきたようだ。
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