世の歪み

5/20
前へ
/50ページ
次へ
右には緑豊かな山があり、左には緩やかに流れる川がある。 そんな田舎と呼ばれる平和の中を旅人と歩いた。 自然な会話をしながら、私は彼を探っていた。怪しむといった形ではなく、好奇心がうずいたのだ。 彼は犬を飼っていて、カオリという女性にモテているらしい。 私の息子が好きだった、漫才師の方とも知り合いらしい。 そんな話を聞いていると、宿に着いた。 「ここです。」 彼は宿を見てポツリと呟いた。 「ボロ…」 確かな事だった。 瓦は色褪せ、玄関先の柱は木が剥がれている。 「こんな田舎では、ここしかないです…」 彼は腕で額の汗を拭き、私の方を見た。 「あなたの家でしょ?」 私はびっくりした。 その通りだった、ここは私が経営している宿。 彼は私の表情を見てから、また宿を見て言った。 「前言撤回!ビューティホー!」 呆気にとられる私を置いて、彼は宿に入っていった。 大きな「ただいま」という声も添えて。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1001人が本棚に入れています
本棚に追加