世の歪み

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それに気をとられていると、背後から木の軋む音が聞こえた。 「どうしたんですか?」 驚きながら振り返ると、声の主は階段の三段目に腰を下ろしていた。 「びっくりしましたよ~、どうしたんです?」 彼はニヤリと笑みを浮かべた。 「誰か来られたかと思いましてね~、ぶっはっはっ!」 何故か彼は笑い出した。 「ええ。 お客さんでしたが、遠慮なされたみたいです。」 私は玄関マットの歪みを直しながら彼に言う。 「へぇ~、いい宿なのにな~。」 彼の本心は定かでない、それでも褒め言葉と受け取る。 「このへんの人じゃない感じでしたね~、スーツ姿で営業マンかしら? こんな田舎じゃ何かと不便でしょうね。」 私は彼に笑顔を向ける。 「ふ~ん。 それより風呂に入りたいんですが…いけますか?」 彼は自分の額に浮かぶ汗を指でアピールしていた。 「すぐ用意しますよ。」 私はすぐに風呂場へ向かった。 向かう途中に僅かではあったが声が聞こえた気がして振り向いた。 そこで彼は玄関を無表情で見つめていた。 たしか…聞こえた言葉は… 「煙草はもっと離れて吸え。」 だった気がする。
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