序章 気になる存在

7/7
前へ
/167ページ
次へ
「そういえば望さんはなにしにここへ?」  望さんに優羽の隣、もといソファを取られたので、現在俺は部室の隅で立ったまま紅茶を飲んでいる。 「少年が優羽にちょっかい出してるんじゃないかなーと思ってね」  なんでそんなことわかるんですか。 「とまぁ冗談は置いといて、クリスマスパーティーでの出し物について優羽とちょっと相談をね」 「写真部もなにかやるんですか?」  初耳だった。また面倒なことにならなきゃいいけど。 「クリスマスパーティーでの写真部の出し物は……水無月優羽ファッションショーだ」  なんか今変な間があったけど……まさか今考えたとかじゃないよな?  優羽の方を見ると、真っ赤になった顔を熊のぬいぐるみで隠すように縮こまっていた。  ファッションショーで色んな人からの視線を受ける自分を想像して恥ずかしくなった……ってとこだろうか。  それにしても、普段あまり気にしないから気づかなかったけど、優羽がいつも持ってる熊のぬいぐるみってずいぶんとボロボロだな。  ところどころ破けたのを直した跡があった。 「なぁ優羽、そのぬいぐるみ随分年期入ってるけど……新しいの買ったりはしないのか?」  俺がそう聞くと、優羽の真っ赤になった顔は元に戻り、なぜか少し落ち込んだような表情を見せた。 「うん。昔……ある人にもらった……大切なものだから」  その時の優羽の表情はどこか寂しそうで、瞳には悲しげな藍色を宿していた。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2551人が本棚に入れています
本棚に追加