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希望を胸に、舞台に立つための稽古に明け暮れる毎日が輝かしく始まった。 が、ここでも勿論壁は待っていた。 4月からのツアーに出れるようにと先輩からつきっきりで指導を受け、朝から晩まで芝居ばかりしていられたのは良かったのだが、ぬいぐるみの目と口を動かして演じるというのは、それまでの演劇とはまるっきりわけが違ったのである。 左手の人差し指と中指でワイヤーを操ってぬいぐるみの目と口を動かすのだが、手の動きに集中すると体が思うように動かせない。体を思いっきり動かせば指に神経が行かず目も口も開きっぱなし、もしくは閉じっぱなしになってしまう。 やっと指と体を同時に動かせるようになっても、その上表情や感情を表すというのは『慣れ』だけでは出来ない、年月を重ねなければわからない奥の深いものだった。
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