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今朝から一台の車が山道を走っている。
四輪駆動の黒いワンボックスだ。
曲がりくねった危険なカーブをものともせず、山頂をひたすら目指している。
走っているのはその一台だけ。
鬱蒼とした針葉樹の森を貫く狭い道をうねりをあげて進んでいた。車に乗っているのは男が二人。
助手席でぐっすりと眠っている中年の男と、運転手は若い男。
朝靄に包まれた森は、どこか神秘的で、荘厳で、美しいがまるで樹海のよう。
車はフォグランプを点けて、舗装されていない雪道をぐんぐん進む。
運転手は久しぶりにその車の性能を発揮し、悦に浸っていた。
盛り上がった雪道でも、アクセルを踏めば力強く前に進む。粉雪を巻き上げる。
その車はまるで獣のように頼もしいが、所詮人が造ったもの。
自然が本当の力を誇示すれば、あっけなく飲み込まれてしまうだろう。
だがこの雪山が恐ろしいのは、自然の力だけではない。
幾重にも重なった怨念。
それは昇華されることはなく、渦を巻き、増幅し、膨張する。
やがて、それは牙をむく。
近づくものを飲み込む。
どこまでも暗い、どこまでも深い、深遠の闇に引きずり込む。
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