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麗らかな春は、いつも私の前を瞬く間に颯爽と通り過ぎていく。
春の新作カットソー、春メイクにヘアスタイル…
準備するのは楽しいのに、堪能できるほど私は暇じゃない。
年度末、決算、人事異動。
社会人になってからは忙しすぎる春が大嫌いになった。
呑気に酔っ払って花見なんてできる人が羨ましかった。
だいたい、出勤する早朝と帰宅する深夜は、春の装いはあまりに不似合いなほど、風か冷たい。
儚く散る桜が、短い命を私に見せ付ける。
私は20歳の4月、横浜市内の会社に入社した。
ありきたりな事務職だが、会社は全国規模で、おまけに絶対に倒産の恐れのない公務員だ。
私は本当は事務職ではなく公安職に就きたかった。だから大学入試を失敗しても、敗北感に泣く前にさっさと専門学校の入学を決めた。
高校の進学コースで勉強漬けの毎日が泡になって消えたのだ。
親は私よりよほどショックを受けた。兄はさっさと私立大学に推薦で入学したのに、私はといえば入試日程のギリギリまで受験し続け、とうとう合格発表板には一度も私の受験番号は載らなかったのだ。
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