つぐない

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「今一番したいこと? そうね…… 花嫁になりたいかしら」     そう言った彼女の姿は、とても儚く、弱々しかった。       ……彼女をこうしてしまったのは全部、俺のせいだ。 いや、正確には俺のせいではないのかもしれない。 だけど、一番つらかったのは結局、彼女だったのだ。     彼女は……   俺の冤罪を晴らす為に一緒に戦ってくれた   『犯罪者の妻』と呼ばれても決してへこたれなかった。   刑務所から出て来て、人間不信になった俺を、必死で立ち直らせてくれた。     それは、とてもつらかったと思う。 『辛い』という意味の言葉を、億千と並べても表せきれないくらいに。   そして俺は、彼女が倒れた時、最後まで側に居ようと思った。 それが俺のせめてもの『つぐない』       だから、恐らく意識がほとんどなく、本能か何かで喋っている彼女に こう言った。       「ああ…… 今…… お前は……とても   ……とても綺麗な花嫁さんだよ」 と。       実際、彼女は花嫁姿だった。 数日前にも同じ質問をしていたから。       彼女はその言葉の後、僅かな笑みを浮かべ   ……息を引き取った。       でも、俺は自然と涙が出てこなかった。       元気だった頃の彼女。 献身的に接してくれた彼女。 病気で弱った彼女。   全員、今でも   俺の心の中では生き続けていくから。
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