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「美大に行って絵を極めて、国内の人間をあっと言わせて世界へ羽ばたくと思った」
「そりゃ大層な夢物語だな」
俺は今度こそ苦笑をした。
絵で生活できる人間が、志した者の中で果たしてどれだけいるのか。
きっと、凄く少ないだろう。それこそ、恵まれた人間だ。
そんな俺の様子に、静夜は不満そうに眉を寄せて口を尖らす。
「夢を見るのはたださ。無料なんだよ? 実現するには金かかるし壁にも激突するだろうけど、それを越えるために努力をするんだ。夢が叶う叶わないは関係ない。結果として叶う方がいいけど、重要なのは、それまでの過程だと思う」
お調子者のくせに、こういうところはしっかりしているんだよな、こいつ。
俺より大変な筈なのに。
「んじゃ、ちょっと夢見てきますか」
「家来いよ。新しいDVD買ったんだ!」
人が夢見るって言っているのに、こいつは何を言っているんだ何を。
呆れて空を見ると、微かに朱い光が雲の合間から射し込んでいた。
そのあと大雨が降って、帰るのが面倒で静夜の家に泊まったのはきっと、偶然だと思いたい。
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