第一章 異端の赤雪姫

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ようやく父親が口を開く。 「実は議会で……」 「私がメルセン家の後継者として認められなかったんですね」 しびれをきらして、私は言葉を遮った。困ったように、父親は金の顎髭をなでつける。 「新学期から父様の『メルセン』の姓を名乗れるなんて、期待していませんでしたから」 「……すまない」 貴族の家系では、議会が正当な跡継ぎと認めない限り、長男でも姓を名乗れないのだ。ましてや、 「母様が東洋人なんですから、議会も簡単には認めないでしょうし」 そう。私の母親は東洋人。敵国の人間の血をひく者を許容するほど世間は甘くない。 「…じゃあ、魔法学校でも前と変わらずに母様の姓を使います」 前の学校でも『アカユキ』の名を使っていたから、かえって慣れているし。そう思っていた私に父親の次の一言は衝撃だった。 「……それが、東洋風の名前もやめてほしいそうだ」 「え……でも、私はなんて名乗れば」 父親は予想済みだったようで、黙って一枚の紙を渡した。 『ヒカリ・スノゥレッド』 それが私の新しい名前。 「どうにか名前は勘弁してもらったが、姓は無理だった」 「…赤雪姫ですか」 私は苦笑した。 白雪姫という童話の主人公は確か『スノゥホワイト』だった。 「赤雪って、桜の意味なんですけどね」 父親は確かにという。 「だが、『ヒカリ・チェリー』とは名乗りたくないだろう」 私は顔をひきつらせて頷く。その表情に父親は苦笑した。 「だから敢えてそのままにした」 「ありがとうございます」 そろそろ家をでる時間になり、私は立ち上がる。 「では、行ってきます」 「あぁ。また一月留守にするが、元気でな」 「はい」
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