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ようやく父親が口を開く。
「実は議会で……」
「私がメルセン家の後継者として認められなかったんですね」
しびれをきらして、私は言葉を遮った。困ったように、父親は金の顎髭をなでつける。
「新学期から父様の『メルセン』の姓を名乗れるなんて、期待していませんでしたから」
「……すまない」
貴族の家系では、議会が正当な跡継ぎと認めない限り、長男でも姓を名乗れないのだ。ましてや、
「母様が東洋人なんですから、議会も簡単には認めないでしょうし」
そう。私の母親は東洋人。敵国の人間の血をひく者を許容するほど世間は甘くない。
「…じゃあ、魔法学校でも前と変わらずに母様の姓を使います」
前の学校でも『アカユキ』の名を使っていたから、かえって慣れているし。そう思っていた私に父親の次の一言は衝撃だった。
「……それが、東洋風の名前もやめてほしいそうだ」
「え……でも、私はなんて名乗れば」
父親は予想済みだったようで、黙って一枚の紙を渡した。
『ヒカリ・スノゥレッド』
それが私の新しい名前。
「どうにか名前は勘弁してもらったが、姓は無理だった」
「…赤雪姫ですか」
私は苦笑した。
白雪姫という童話の主人公は確か『スノゥホワイト』だった。
「赤雪って、桜の意味なんですけどね」
父親は確かにという。
「だが、『ヒカリ・チェリー』とは名乗りたくないだろう」
私は顔をひきつらせて頷く。その表情に父親は苦笑した。
「だから敢えてそのままにした」
「ありがとうございます」
そろそろ家をでる時間になり、私は立ち上がる。
「では、行ってきます」
「あぁ。また一月留守にするが、元気でな」
「はい」
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