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「なあ、柳澤君」
「何?」
小声で満里菜が俺を呼んだ。その表情は真剣なものだ。
「柳澤君な、虎太郎に彼女がいるかどうか知ってる?」
「……」
何と答えればいいか分からなくて、短い沈黙が流れる。
「……太田とはそういう話しないからよくわからないけど、好きな人はいるみたいだよ」
とっさに嘘をついてしまった。彼女の質問の意図がわかったから、牽制した。
「そうなん。ごめんな、変な事聞いて」
「ううん、俺こそ役に立たなくて……」
「このこと、虎太郎に内緒にしといてな?」
「わかった」
笑う彼女を見て、罪悪感がチクリと胸に刺さった。
太田の部屋に布団を二組並べて敷いた。部屋の電気も消してほどよく暗闇になる。
「ソラ、寝たか……?」
「……起きてるよ」
「満里菜のことごめんな。由衣が駅で会って、俺が帰ってるからって誘ったらしい」
「うん」
会話が続かない。ぎこちない空気が漂う。
「なあ太田。幼馴染みって普通名前で呼びあうもんか…?」
だって、俺はまだ太田を名前で呼んだことがない。
「ソラ……」
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