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標高はそれほど高くないが、夜景と海が見渡せる。灯りが近くて人々の息吹が感じられるようだ。
「ビーナスブリッジって言うねんで」
「へぇ……」
「こうやって見たら、震災があったように見えへんやろ」
「本当だね」
今から十数年前、阪神淡路大震災が起こった。
俺は関東在住だったから強い揺れは経験していない。でも朝のニュースで目にした悲惨な情景に、子供ながらに強いショックを受けた。崩壊したビル、分断された高速道路、あちこちで上がる火の手。
沢山の命が失われ、今なお苦しんでいる人も多いのだろう。街は復興したように見えるが、実際のところはどうなのだろう。
太田も被災したのだろうか。
ちらりと太田に視線を向けると、彼は町の灯りを見ていた。
「なあソラ、人間て強いと思わへんか 。どん底からでも頑張って這上がんねんから。もうあかん思っても、死にたい思っても何とかして復活するんやもんな」
「そうだね」
太田は自分のことを重ねているのだろうか。不慮の事故で、小さい頃からの夢だったプロ野球選手になる夢を絶たれた。その事実はどれ程太田を痛めつけたのだろう。彼もまた立ち上がれなくて、自暴自棄になって。もがいたのだろうか。
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