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太田の声は不満気だ。
車内に女性ボーカルの歌声が流れ、窓の外にはロマンティックな夜景が広がる。
太田は以前にデートでここを訪れたのだろうか……好きだよと、誰かに甘く囁いたのだろうか……
そんなことは考えても仕方ないと思うのだが、やりきれない思いが俺を襲う。
俺は初めて付き合った相手が太田だし、初めてのセックスも太田だ。当然別れの経験もなく、その感情も分からない。
太田は終わったことと言ったが、満里菜の中では終わっていないのだ。
ついさっき俺が必要だと言ってくれたのに、自信が持てない。不安が頭をもたげる。もし俺が女だったら……? 意味のないことを考えてしまう。
「えらい静かやな。酔ったか?」
「え? いや、平気。窓の外に気持ちがいってた」
ぼうっとしていた自分に余計なことを考えるなと叱咤する。太田を信じればいいのだ。
東京に戻ったら、余裕も持てるはずだ。慣れない場所にいるからナーバスになっているのだけだ。
「ソラ、もう山下りてしまうな。車をとめられへん」
「かまわないよ。ご飯でも食べに行く?」
「そうやな。このまま宝塚から帰る」
「うん、わかった」
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