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あるところに男がいました。
悪い人間ではありませんでしたが、真面目で善良だとはいえない男でした。
それでも少し前まではそれなりに働いておりました。
だけど上司を殴って会社をクビにされて以来、パチプロを気取ってはパチンコ屋さんにせっせと貯金するようになりました。
面倒な事はパートに出ている奥さんに全部任せておりました。
奥さんはそれを大変苦々しく思っていましたが、幼い娘の事を考えると思い切った手段をとる事ができませんでした。
まだ小学生の娘は利発な子供でした。
無駄に賢かったので、自分の両親の仲や家の経済状況をなんとなく察してしまい、いつしかなんでも我慢する子になりました。
そんなある日、娘は友達の家で雛人形をみました。
七段飾りの立派な雛人形でした。
上から五段目までにお内裏様にお雛様、三人官女、五人囃子、右大臣左大臣、三人仕丁まで15体の人形が揃い、残りの二段には蒔絵のついた嫁入り道具が幾つも並んでいます。
金の屏風に緋毛氈、雪洞はスイッチを入れると本当に灯りがつきました。
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