第一章 真紅のワイン

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時刻は、午後11時半。とあるマンションのエントランスに、霧島直哉はいた。 ここは直哉の住むマンション。彼がいても何らおかしくはない。 だが、それにしては妙だ。直哉は、まるで家へ帰るのを躊躇うかに、オートロック扉の前に突っ立ったままだった。 何故なのだろう…? 出張帰りの直哉の表情からは、疲労感が滲みでている。ともなれば、普通なら居心地の良い、我が家へと足は加速するもの。 にもかかわらず、その足は、床に張り付いたみたいに、ピタリと止まり、家路へと進もうとしない。 挙句、直哉は憂鬱そうに、『はあ…』と、大きなため息を吐くと、今度はそわそわ落ち着きなく、扉の前を行ったり来たりと始めた。 そうまで、彼の家路を妨げる理由、それは一体…。 実のところ、夫婦仲に大きな問題があったのだ。率直に言って、直哉は妻の七海と上手くいってはいなかった。 故に、それが原因となり、直哉の足には重い鉛が枷られ、我が家への進路を阻まれてしまう。
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