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「ま、いいや。一件落着なわけね。
じゃ、今度はお前の話。本気なのか?」
ワイングラス片手にいつになく真剣なマスターの問いに、久保田は妖しく微笑んだ。
「…さぁ」
つかみ所のない表情でかわす久保田に、マスターは胡乱気な視線を向ける。
「・・・知ってると思うけど、俺、不倫だけはダメだから」
シャレになってない口調。
静かな店内に響いて、消える。
マスターは初恋の相手である幼馴染の女性と結婚して、離婚してる。
原因は相手の浮気だ。
その修羅場は、久保田もよく知っている。
思い出したくもないのは、2人とも同じだ。
久保田は嫌な記憶を無表情に封じると、空になったグラスをカウンターに戻す。
「だったらなおさら、由岐ちゃん、ちゃんと捕まえとくんだな」
それだけ言って腰を浮かす。
睨みつけてきたマスターを見もせず、久保田は何枚かの札を置くとスツールを降りる。
「ご馳走様」
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