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短夜(みじかよ)の明け切る前から起き出して、朝曇りのうちに甲虫捕獲に精を出す。朝顔昼顔踏みしだき、涸れ井戸の淵でキットカット。但しどろどろ。
どこからともなくラジオ体操。すでに周りは蝉時雨。いろんなとこを流れ落ちていく汗と涙と鼻水 ――― カムバック水分。
凪ぐ。凪ぐ。凪ぐ ――― 夏木立の傍らで一陣の風が熱をさらうのを待つチキン。
待つ。待つ。待つ ――― そんなものは来なかった。
代わりに熱気をたらふく含んだ光の束が葉と葉の隙間から鶏の頭と顔面を叩く。項垂れついでに腰を深く折り、股の間から逆さまに世の中を眺めた。
紫陽花(あじさい)の葉の裏に屯(たむろ)する蝸牛(かたつむり) ――― 乾涸びていた。未来永劫この場所には涼など訪れないに違いない ――― 2ミリの脳でもそいつは悟れた。
油照り ――― こんがり灼かれるローストチキン。
首から吊るした麦藁帽。被り忘れていたことに気がついた。が、もはや被る気力も失せている。
…限界だ ――― 草いきれを掻き分けて、養鶏場から遁走してきたチャボのように水辺を求めてばたばたと彷徨い流離う、間に葱を挟まない焼き鳥。
殺意満々の太陽 ――― いつもよりデカい。5倍はデカい。マズい。非常にマズい。地球か太陽のどちらかが、もう一方に猛烈なアプローチをかけている。もしくはお互いが惹かれ合っている。
ああ、俺は死ぬんだ。夏休みのど真ん中にこんなところで焼け死ぬんだ。しかも独りで…こんなことならみんなとラジオ体操をしておけばよかった ――― チキンは足掻くのをやめた。
心静かに生を終えることを決めた少年チキンは、麦藁を枕に横臥した ――― 黙想。
楽しかったことを思い出そう ――― 思い出せない。
なんだ、俺って思い出ないんだ ――― 涙。もしくは汗。または鼻水か涎。
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