ロケット花火

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 追い打ちをかける直径140万キロの火の玉。陽射しはマックス。目標物までの距離およそ300メートル。視界はもうどこを向いても真っ白だ。  さようなら、みんな…でもみんなもさようならだね。ジュリーだって黒焦げでさよならだ。みんなお互い様だね、ぷっ。  正気を失いかけているカリカリのフライドチキン ――― クローバーの茂みで一服していた蟻を指の腹で潰した。  ちょっと早いけど楽にしてあげるよ ――― 予期せぬ死に驚く暇もなく、天に召された蟻。もう一生働かなくてもいいんだ。よかっただろう。あ~、でも死ぬまでが一生だからこいつは一生働いてたことになるのか…偉いなぁ、お前。ぷっ。  さぁ、いよいよだな、俺も ――― あぁ、足の方からきたか。熱っちぃなぁ。。。蚕豆(そらまめ)食いてぇなぁ。。。        *        *        *        *        *  ぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ。  汽笛 ――― 三途の川は実は海だったのか…ぷっ、てゆうか、なんか寒みぃ。。。  かしゃんかしゃんかしゃんかしゃん、ぐきぃぃぃぃぃぃ、ぐきぃぃぃぃぃぃ。  鉄かなんかが軋む音が聞こえた ――― 列車の連結器が鳴らす摩擦音。今度は地獄行きの列車かもしれない。ぷっ、とか言ってらんねえほど寒みぃってか冷てぇよ、マジ冷てぇって ――― 反射的に跳び起きる。  焼かれたはずの躰はさほど黒焦げというわけでもなく、もっかい生き返っても充分使えるぐらいの汚さ加減だった。でもって濡れ濡れに濡れている ――― 閃光。じきに轟音。  何もかもを焼き尽くそうとした火の玉は、どうやらジュピター(木星)と雷神に葬られたらしい。  驟雨 ――― 軒下に佇む翅蜉蝣(うすばかげろう)。  雨粒に撥ね上げられ、脹脛(ふくらはぎ)で点々模様を織り成す白い泥。蝉の抜け殻を掌で握り潰し、己の早まった行動に懺悔した。  すまん、蟻。そしてまた会えたね、ジュリー。  雨脚が弱まるのと入れ替わりで茜が空を支配した。残虐非道な火の玉の姿は、どこにも見当たらない。
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