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最初の言葉って何て言えばいいのだろう? 「こんにちは」?、それとも軽く「よっ」とか?
口をもごもごさせる。なんだろう、変に緊張する。
「お店ってどこ?」
森内はそんな私に気づかないのか、マイペースに周りを見ている。
「こ、こっち」
――なんでどもる!
自分にツッコミを入れながら、リサーチしたお店へと案内する。駅から近いけど、隠れ家風なカフェ。住宅街にひっそりとあるから、なかなか見つけにくいらしい。
「由良」
「はい」
「右手と右足が一緒に出てるよ」
「はい」
――バカ、私。
恥ずかしさと緊張で、周りの風景もぼやぼやしてきた。自分の感情が意味わからなくて、頭をコツンと叩いた。
「由良」
「なに」
「猫」
振り向くと、森内は塀の上の猫とじっと見つめ合っている。住宅街だから、犬や猫がいても珍しくはない。森内は猫に手を差し出して、キシャーッと威嚇された。
「森内」
「ん?」
「行くよ」
「はーい」
バイバイ、と猫に手を振る。ヤバい、まったくペースが掴めない。
「由良、猫嫌いなの?」
のんびり歩いているが、タッパがあるのであっという間に私の隣に並ぶ森内。
「嫌いじゃないけど、小さいとき追いかけられて以来、苦手」
私は苦い思い出を忘れるように、また頭を叩いた。
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