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「あ、そうだ! 連絡先教えてよ!」
森内は色んな意味で気になる人だったから、あまり話したことが無かった。携帯電話も持ってなさそうだったし、連絡先貰っても取ることは無いなと思っていた。でもこんな道端で会ったのも何かの縁!
「ね!」
念押しする。
「うーん」
森内は面倒くさそうにポケットに手を入れた。ガサゴソ、ガサゴソ。一向に携帯電話は現れない。
「なによ、教えてくれないの?」
ちょっとイライラする。
「うーん」
間の抜けた返事。私とアドレス交換するのがそんなに嫌なのかしら!
「もういいわ」
意地になる。私はカバンから手帳を取り出し、メモ欄を破る。自分の電話番号とメールアドレスを書くと、森内に渡した。
「これ、私のアドレス。無くさないでよ」
普段なら諦めてまた今度ね、って言えるのに、森内はまた今度でもこんな風になる気がして。でも渡したあと、なんだか気恥ずかしくなる。私、なに必死に男のアドレスを手に入れようとしてるんだ、って。
「うん……ありがとう」
森内のぼそっとした声に顔をあげる。森内はにっこり微笑んでいた。
――やっぱり顔は悪くない。
しみじみ、そんなことを思った。
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