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「ほら、やっぱりね」
ザアザア降る雨。傘が今にも負けてしまいそうなほど強い雨。私はむっつりと、傘を持つ手に怒りを込める。
「来ないじゃない」
約束の時間は十二時。今は一時。携帯電話は全く鳴らない。普通なら連絡が来ないと何があったのか心配するけど、カヨにはいつものこと。絶対寝てる。
「もうっ」
携帯電話をもう一度開いてみる。と、知らない番号からの着信。ワンコール、ツーコール……不機嫌な声で電話を取る。
「もしもし?」
「誰」
「は?」
イタズラ? やけに寝ぼけた男の声だなと思いながら、イライラと聞く。
「あんたこそ誰よ」
「森内」
「あっそ……って森内!?」
思いもかけない人からの電話。私は慌てて不機嫌を振り払う。
「で、誰」
「私は由良」
「ゆら?」
森内はうーん、と考えている様子。
「この紙は由良の番号が書いてあるのか」
私が先週渡したアドレス。
「なんで?」
「知らないわよ!」
なんだかカァーッと恥ずかしくなって、勢いで電話を切る。私はずっと待ってたのに、待ってたのに! 森内は私にアドレスを渡されたことも忘れている。
「悔しいー」
ぐうっと歯を食いしばる。すっかり待ち受け画面に戻った携帯電話を見つめて、勢いで切らなきゃ良かったかなと少し後悔した。
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