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四月も終わり、そろそろ羽織る服が薄くなり始める頃、場違いなくらいに煌々と輝く太陽が照り付けてくる。
そんななか額に流れる汗を拭いながら、憎たらしいくらい絶妙に日差しを遮ってくれない木々が並ぶ山道を歩いていた。
「暑……」
さほど大きな山ではないのだが、蛇行を繰り返しているのと登りであることで、見た目以上に険しい。
そんな山道を歩く彼の名は結城悠真(ユウキ ユウマ)。学生でありながら日本最高の栄誉『ウィザード』の称号を持つ『風』の属性を操る魔法使いだ。
彼は先の聖壌市で起こった事件で負った怪我が治っておらず、ギブスで固定している右手はすでに意識を向けるのも嫌なほど汗で蒸れている。
左手には新聞紙で包装された花ともはや暑くて着ていられない上着を抱えた格好であり、ポロシャツには汗でシミができていた。
悠真は山道が続く先を見上げ、そこが開けた場所になっているのを確認する。
ようやくの到着に、疲れを吹き飛ばすよう大きく深呼吸をした。
最後の坂を登るとそこから先は大きく開かれた人工空間に出る。
そこは宗教的なものではないのか大きい物、鋭角的な物、塔のような形をした物と様々な墓石が並んでいた。霊園である。
この場所を訪れるのは一年振り。前回はちょうど去年の今日。
今日は大切な幼なじみ――いや、恋人と呼ぶのが一番正しいだろう――の命日。悠真は六年前のあの日から毎年欠かさずここに足を運んでいた。
立ち並ぶ墓の間を抜けて直方体の墓の前で足を止める。
刻まれた名は『吉野桜』(ヨシノ サクラ)。
「吉野のおじさんたちとは入れ違いか」
まだ代えられたばかりの花と煙の上がっている線香が備えられており、それが桜の両親が来ていた証だとすぐにわかった。
今日ここに来るのは悠真を除けば彼らくらいのものだろうから。
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