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墓地というのはやはり独特の雰囲気がある。
死者の魂を鎮める墓が並んでいるからか、それとも線香の臭いがそうさせるのか。感応能力では捉えきれないなにかの存在を感じる。
――ともすれば今ここに桜の魂がいるのではないかと思わせるような。
「すまん桜。今は右手がこんなだから」
何となく話し掛けてしまいながら献花を終え、合掌の代わりに胸に拳をあてて祈る。
(なにから話そうか。まずはみゆと再会したことからかな……)
当然返事など返ってくるはずがなくとも、この日この場所で一年間で起こったことを話すことが悠真にとって年中行事となっていた。
魔法闘技大会で優勝したこと、ウィザードになったこと、魔法科の教師になったこと、みゆが聖壌学院に入学してきたこと。
話せば話すほどに溢れてくる。おそらく今までで一番濃密な一年だったかもしれない。
「っと、もうこんな時間か」
時計を見ると予定時間を過ぎていた。そろそろ戻らないと今日中に帰れそうにない。
未練を断ち切るように立ち上がる――
「……?」
その時、何かが視界を動いたような気がして動きを止めた。
気配はない。少なくとも感応能力で感じられる範囲では。
だが、何かが動いている。軽く好奇心を覚えてそちらを見やった悠真はその瞬間硬直した。
「 」
発した言葉は音になっていない。いや、それ以前に声を発したのか。発そうとしたのか。
とにかく、彼の頭はそれすらもわからないほどに混乱していた。
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