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「えー。本日はお足下の悪い中、お集まりいただきありがとうございます」
秘書の中村陽介(ナカムラ ヨウスケ)が乾杯の音頭を取る。
――輝くシャンデリアの下、百人近くの老若男女が大江財閥の主である大江康蔵(オオエ コウゾウ)の傘寿を祝っていた。
真っ白いクロスが掛けられたテーブルの上には色とりどりの料理が並べられ、客人達はそれを皿へ取っては舌鼓を打っている。
もちろん、中村のつまらない挨拶など誰も聞いてはいない。
中村は七年前から康蔵の会社で秘書を勤めている。
康蔵の奥さんである大江みよ子(オオエ ミヨコ)と趣味が合うことから、仕事以外でも屋敷に出入りしていた。
ちなみに――みよ子は今年で四十歳になる。
当然、康蔵よりも中村の方が歳が近い。
そして中村は康蔵よりもずっとみよ子のことを大切にしている。
しかし、だからといって二人には不倫をする気などさらさら無い。
康蔵もそれを知っているから中村を拒んだりしないし、敵視することも無いのだ。
それどころかまるで血の繋がった息子のように可愛がっている。
――だが、それをよく思っていない人物もいる。
大江家の長男である大江眞吾(オオエ シンゴ)という男。
彼は既婚者だが、母を誰よりも愛していた。
だから、母と楽しそうに話す中村に嫉妬しているのだ。
それゆえに眞吾は中村のことが心底嫌いで、それは――殺してしまいたいほどだった。
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