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「赤石 倫太郎さんですね。どうぞ、ご案内します」
私は来訪中の札を出入り口にかけ、彼を廃棄場へと案内した。
廃棄場の中には具現化された記憶が、ゴミのように積まれ棄てられていた。天井には巨大なチューブがあり、そこから常に記憶が棄てられて来る。
「うわぁ……こんなにも記憶って棄てられてるんすか?」
「えぇ、みなさん驚かれます。だけど心配無用ですよ。心が指差す方に向かえばいいのです」
彼は不思議な顔をして
「心が指差す?」
と聞き返してきた。
「えぇ、パッと見て、ここかな?って場所に向かえばいいのです」
半信半疑の彼は、とりあえず記憶の山を歩き出した。具現化された記憶は、文字や数字だったり、物だったり、何かが詰まった瓶だったり色々あった。
「何を御捜しですか?」
私は来訪者の赤石さんに問い掛けた。
「いやぁ……まぁ……」
何やら言いにくそうだったので、無理に訊こうとはしなかった。ここに来る人は大概そういうものだ。
それから無言で捜し続ける彼を、私はただジッと見守っていた。
「あれぇ……ないのかなぁ……どれもこれも同じに見える。これでもないし、これでもない……」
時間がかかりそうだったので、私はこの施設で利用しているキッチンへと向かい、お茶と茶菓子を探した。
「饅頭は……っと…あった」
饅頭の賞味期限は半年ほど過ぎていた。
「あらら……まぁいいか」
私は構わずお茶と茶菓子を彼に持って行った。
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