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廃棄場に戻ると、赤石さんは段ボールのような記憶に座り煙草を吹かしていた。
「休憩ですか?」
「あ…!えぇ…まぁ」
私は赤石さんの前にお茶と茶菓子を置き、煙草をひったくって地面で消した。
あまりにも素早い動きに赤石さんは唖然としていた。
「ここは記憶を棄てられる場所。気をつけてください、あなたが座ってるその段ボールのような物も、れっきとした記憶なのですから。もしも煙草の火が引火して燃えてしまったら、その段ボールの記憶はこの世界から消えてしまいます」
ちょっとした説教に赤石さんは顔を歪ませた。
「すいません…」
「いえ、初めに注意し忘れた私がいけないのです。どうぞ、お茶と茶菓子を召し上がってください」
「ありがとうございます」
赤石さんは饅頭を口いっぱいに頬張った。変な味がしないか心配だが、どうやら大丈夫なようだ。口の中に入れた饅頭をお茶で流し込み、一息ついてから語りだした。
「俺はダメだな……俺って、こんなんでしょ?」
赤石さんは自分の格好を私に見せてきた。
「俺、結構さ……親に迷惑かけてきたんだ……母ちゃんを何度も泣かしてきた。でも、何て言うか……でもさ」
お茶を全部飲み干し
「どうでも良かった。親が泣こうがどうしようが、関係無かったんだ」
と続けたが、その先は言いにくいのか、黙りこんでしまった。
「饅頭は美味しかったですか?」
無理に訊く事はない。私はどうでもいいような事を訊いた。
「えぇ…」
「賞味期限、切れてたんですけどね」
赤石さんは、一瞬驚いた顔をしてゴホゴホと咳をした。
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